William Blake(1757-1827)ウィリアム・ブレイクは英国の文学史上最も幻想的な詩人として、また絵画の歴史においても特異な作風の画家として知られています。 詩においても、絵画においても、自らの内面の情熱を形に表すといった作風で、そのすべてが宗教的なヴィジョンに裏打ちされています。既に7歳のときに、宗教的な啓示とも言うべき幻想を見たという伝説が残されており、生涯を通じて、強烈な宗教意識を持ち続けました。 彼の有名な詩に、The Tiger という小品があります。 Tiger! Tiger! burning bright In the forest of the night, What immortal hand or eye Could frame thy fearful symmetry. の一節で始まるものですが、この一節から推察されるように、言葉の背後に形態への強いこだわりがあります。そしてその形態とはたんに日常的な景色ではなく、内面の目によって透視された、対象の本質ともいうべきものをとらえています。 また、こんな詩も残っています To see a World in a Grain of Sand And a Heaven in a Wild Flower, Hold Infinity in the palm of your hand And Eternity in an hour. Auguries of Innocense の冒頭の一節です。眼前の小さなものの中に、宇宙を読むという発想には、宗教的な深い思索が宿っています。 画家としてのウィリアム・ブレイクは、版画作家として出発しました。18世紀から19世紀にかけての英国の出版業界では、版画の出版が隆盛を極め、多くの版画作家が現れましたが、ブレイクもその一人だったわけです。10歳のときにデッサンスクールに入り、15歳から22歳にかけて有名な版画作家の下に弟子入りして修行を積んでいます。 初期のブレイクは、政治的出版物に挿絵を描いたりしていましたが、そのうち自らの文学作品に挿絵を加えて出版するようになります。 Songs of Innocense(1789) The Marriage of Heaven and Hell(1790) The Song of Loss(1795) といった作品群です。これらの主に詩集は、画家としての名声より、幻想的な詩人としての名声を彼にもたらしたようです。 ウィリアム・ブレイクの生涯を通じての作品の特徴は、水彩絵の具による製作です。ブレイクは紙に描いた素描に水彩絵の具を塗ったり、あるいはエッチングによるデッサンに水彩絵の具で彩色しました。現在残されている作品の殆どは、エッチングを基にしたもので、書物の挿絵として製作されたものですが、独立した水彩画作品もいくつか残っています。 これは、シェイクスピアの作品『真夏の夜の夢」からヒントを得て描いたものです。ドラマの主要人物たるオベロンとタイタニア、それに道化のパックを左に、妖精たちの踊りを右に描くことで、この作品の幻想的な雰囲気を画面いっぱいに表現しています。 悪い天使と良い天使と題したこの作品は、ブレイクが生涯にこだわった聖書からのモチーフです。ブレイクの絵の殆どには、精神的なものをテーマにし、人間とその内面を視覚的な形に現そうとして苦闘したさまが読み取れます。 ウィリアム・ブレイクは晩年、ミルトンの宗教詩やダンテの神曲をテーマにした絵本の出版に打ち込みます。 これはミルトンの復活園をテーマにした絵本の挿絵の一つです。初期の絵本の挿絵に比べて、彩色の濃度が濃密になっています。 また、これは最晩年の作品、ダンテの神曲の挿絵の一つです。この本のために描かれた作品は、いまでもブレイクの代表作品として、多くの人びとを魅了しています。 晩年のブレイクは、エッチングによる方法をとらず、厚紙に油絵の具で下書きした絵を水彩紙に写し取り、それに水彩絵の具で仕上げを加えるという方法をとりました。絵から受ける濃密な印象はこのような方法によってもたらされたものです。 関連リンク: ブレイク詩集:無垢の歌 / ブレイク詩集:経験の歌 |
東京を描く>水彩画>水彩画の巨匠たち |