絵の具の顔料




顔料の性質

顔料は色のもとともいうべき成分で、人類は太古から自然の中からさまざまな物質を顔料として取り出し、絵の具を作ってきました。

まず、染料との違いについていうと、染料は粒子が細かく水に完全に溶け、布や紙を染めてしまう性質があるのに対して、顔料は粒子が相対的に粗く、水に溶けることがないので、紙を染めるまでには到らないという性質があります。

このため、顔料を成分とする水彩絵の具は、紙を染めるのではなく、紙の上に付着しているような状態で定着します。このことから、いったん塗った絵の具を後からふき取るようなこともできるわけです。

また、コバルトブルーのように粒子の粗い顔料をつかった絵の具は、粒状化現象といって、乾いた時の色合いがざらざらとして、砂をちりばめような印象を与えることがあります。


顔料の種類

顔料の種類は、自然の中に存在する自然物か、人間の手によって作られた合成物か

あるいは、無機物か、有機物か、

という、二重の基準に従って分類されます。その結果は次の通りです

 無機自然物・・・粘土などのアースカラー
 有機自然物・・・草汁などを原料とした自然顔料
 無機合成物・・・カドミウムやコバルトなどの金属化合物
 有機合成物・・・化学製品


無機自然物

アースカラーといわれる一群の顔料で、殆んどは粘土や岩石から作られます。おもな成分は地中に溶け込んだ酸化鉄で、その割合によって、鈍い黄色から鈍いオレンジ、また鈍いグリーンなどが得られます。

これらの色はいづれも色持ちのよいこと、つまり堅固な耐光性を有しています。
黄色のアースカラーの代表はイェローオーカーです。

また、生産地の名を冠したものとしてシェーナ、アンバーなどがあります。シェーナはイタリアのシェーナ地方の粘土を原料とするもので、生のままのものをローシェーナ、火を通したものをバーントシェーナといいます。

アンバーはイタリアのウンブリア地方産とされますが、一説ではウンブリアとは関係がなく、ラテン語のオンブラ(影)を語源とする説もあります。アンバーにもローとバーントの種別があります。

緑がかった土から作られたものに、テールヴェルトがあります。

このほか、色の付いた岩石から群青(瑠璃の岩石から)や翡翠の顔料が得られます。日本画の顔料に使われるものは、殆んどが自然の岩石を原料としており、岩絵の具と呼ばれています。岩は細かく砕くほど色合いが淡くなる性質があります。


有機自然物

有機自然顔料は、植物や動物の色素から抽出されたもので、太古から絵の具の材料として用いられ、古代人の身体装飾や女性の化粧品などに重用されてきました。現代ではその殆んどが、人工顔料にとってかわられましたが、名称はそのまま採用されているものが多いようです。これらの殆んどは、色があせやすいと言う性質があります。

植物性顔料には次のようなものがあります。

マダーというアカネ科の根からえられる染料:ローズマダーブラウンマダー
植物の葉からえられる染料:インディゴサップグリーン
植物性の墨:木を燃やした後の煤から作られます

動物性の顔料には次のようなものがあります。

カイガラ虫などの昆虫からえられるもの:カーマイン
イカの墨からえられるもの:セピア
牝牛の尿を蒸発させてえられるもの:インディアンイェロー
マンゴの樹液からえられるもの:ナチュラルガンボージ
動物の骨の墨:アイボリーブラック


無機合成物

無機合成顔料は、近代科学の進歩から生まれた第一世代の人工顔料です。カドミウム、クローム、コバルト、亜鉛、マンガンなどの金属元素の性質を分析する中から次々と合成されるようになったもので、あたかもドールトンによる原子理論の研究と歩調を一にしていました。

これらの金属化合物を原料とする顔料は、強い耐光性を有しています。

カドミウム化合物・・・硫化カドミウムの形で、鮮やかな黄色から深いオレンジまでをカバーします。錫を加えることでレモンイェローを、セレンを加えることでディープレッドを作り出します。暖色系の絵の具の基本色となるものです。毒性が強く(決してなめたりしてはいけません)、やや不透明ですが、色持ちは抜群です。

クローム化合物・・・クロームの語源はギリシャ語のクローマ(色)です。黄色からオレンジ、赤、グリーンまでカバーする色域を有しています。ただ、カドミウムと比較すると彩度が劣るため、現在ではあまり用いられません。(ただし水分を含む酸化クロームはヴィリディアンとして広く使われています)

コバルト化合物・・・コバルトはカドミウムとは反対に、寒色系の基本となる色を作ります。紫からブルーを経てグリーン、イェローまでをカバーする広い色域を有しています。コバルト化合物は粒子が粗いため、粒状化と言う現象を引き起こします。

コバルトバイオレット(硫化コバルト)、コバルトブルー(酸化アルミとの化合物)、セルリアンブルー(酸化錫との化合物)、コバルトターコイズ(酸化クロームとの化合物)、コバルトグリーン(酸化亜鉛との化合物)、コバルトイェロー(別名オーレオリン:亜硝酸コバルトとカリウムの化合物)

マンガン化合物・・・マンガンはバリウムと化合してマンガニーズブルーを作ります。この色は、工業用に用いられる3原色のひとつであるシアンに最も近い色です。

硫黄化合物・・・硫黄は硫酸塩の形でさまざまな金属化合物の成分となります。硫黄を原料とする色で最も重要なのはウルトラマリンブルーです。(珪酸硫黄にナトリウム、アルミニウムが結合したもの)

水銀化合物・・・水銀は非常に毒性の強い物質ですが、硫化水銀からはヴァーミリオンができます。

亜鉛チタンの化合物からはそれぞれジンクホワイトチタニウムホワイトなどの白色顔料ができます。


有機合成物

有機合成顔料は、今日の有機化学工業の技術を駆使して生産されているもので、

以前に存在していたあらゆる色の代替物を作り出しています。

無機合成物の代替品としては、金属類の有毒性を緩和しつつ色持ちのよさをそのまま引継ぎ、有機自然物の代替品としては、耐光性の問題を解決しつつあります。今後の顔料生産の中心となるものです。

この顔料のグループには無限に近いバリエーションがあり、いちいちについて説明することは控えますが、あえて代表的なものをあげると

フタロシアニン:ブルー系の色を作ります
キナクリドン:マゼンタ系の色をつくります
アゾ顔料:黄色からオレンジを経てレッドに到る広い色域をカバーします





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